ドラゴンクエスト
 [ #06 名前を覚えること ]


瀬上 : うーん。まぁそうですねぇ。
 まぁ、とりあえず、その話はこれ以上はすすみそうにないですね。

米島 : うん。はい。
 じゃ、次、戦闘ね。すごいゲームバランスがいいんだけれども、その話はちょっと飛ばして、レベルアップについて一言だけ話すと。レベルアップするたびに「パラパラパーラッパー」という効果音が流れて、レベルアップするとすごい嬉しいんだよね。あれが。ここらへんとか、アフォーダンス・デザインみたいなのがゆきとどいてるよね。
 それとあとね、モンスターのネーミングセンスがすごくいいのね。だいたいのネーミングにセルフトーキングの手法を使っているから、モンスターの名前が覚えやすいし、敵のグラフィックデザインもかわいいから、モンスターについても愛着が沸いてすぐに覚えてゆくでしょ。
 もう一つ重要なこととして、お金のたまりにくさね。基本的に貧乏なゲームだから、新しい武器とか防具とかを買う時はすごく悩むわけ。で、その悩むって過程が大事でさ、悩むこと自体が面白いというのもあるし、あと、悩んでいる最中に武器とか防具とかの名前とかを全部覚えるのね。

瀬上 : っと、まず一つ単純な質問で申し訳ないんですけれど「セルフトーキング」ってなんですか?

米島 : えーっとね。つまり日本語にすると「自らを語る」というようなネーミングの手法のことだからぁ、わかりやすいのは「はえおとこ」!みたいなね。まさにはえおとこ以外の何物でもないぞ!みたいな。

瀬上 : (笑)ッフ。

米島 : 他に「とらおとこ」!とか、フーセンドラゴン!とかメタルスライム!とか。

瀬上 : ま、つまり見たまんま。

米島 : あ、いや、正確にはセルフトーキングとかっていうのは商品広告とかの戦略とかで出て来るような話で、例えばビターチョコレートに対して「レヴィナス」っていうような名前をつけるとこれはセルフトーキングではないよね。

瀬上 : ええ

米島 : で、「茶色いお菓子」っつったら、まぁセルフトーキングではあるけれど、そうだね「苦チョコ」とかっつったらセンスのいいセルフトーキングかなぁ。

瀬上 : センスがいいかなぁ…その名前は……?

米島 : まぁ、センスがいいか、悪いかは別にしてさ。(笑)  見た目というか、用途だとか、そういった意味合いまで含めてね「自らを語る」。まぁ「見たまんま」っつたってそんなにはずれてないけど。

瀬上 : えーと、それでセルフトーキングの利点というが……

米島 : えっとね。だからさっき言ったように名前を覚えやすいということだよね言葉とモンスターの名前がすぐにつながるでしょ。意味記号と意味内容をつなげやすい。つなげやすいというか、そのままだよね。
 例えば「ケルナー」っていうでっかいナメクジみたいなモンスターがいて、そのモンスターの名前を覚えようと思ったら「ケルナー」って何か?と言われたら、でっかいナメクジみたいなやつだ、ということを繋げて覚えなきゃいけないよね。でも、ドラクエだったらそんなことわざわざ覚えなくてもでっかいナメクジのモンスターの名前はそのままんま「おおなめくじ」。名前だけで説明が不要でしょ。
 このセルフトーキングの手法を採用したというのはさすがに堀井さんは言葉のプロだなという感じがするよね。

瀬上 : その、セルフトーキングというのはだいたいわかるんですけれども、もう一つわからなかったのがですね。モンスターの名前を覚えるということと、武器の名前を覚えるということと、繰り返して2回も「名前を覚える」ということを言われましたけれども、なんで、名前を覚えることというのをそんなに言うのかということについてなんですけれども、

米島 : えーと、それはねぇ。名前は覚えた方がいいからですよ。
 って、これだと説明になってないけど。

瀬上 : ん?RPGのプレイヤーはモンスターや武器の名前を覚えなきゃいけないんですか???

米島 : プレイヤーが自主的な努力でもって覚える必要性はないけれどもね、ゲームのクリエイターは、プレイヤーに覚えさせなければ駄目だよね。クリエイターは絶対に努力しなければいけない。

瀬上 : それは何故?

米島 : まず、すごく単純なところからいくとよ、魔法の名前と、魔法をとなえた時の効果とかがわからないとゲームをプレイすることが困難だよね。これはすごくはっきりしている。

瀬上 : 確かに、それはその通りですね

米島 : で、もう一つの理由だけどね、モンスターとか武器の名前とか町の名前とか、そういうところまで、覚えている必要性というのはどこにあるか、というと絶対的な必要性というのは無いけれどもさ、例えばよ、通常ね、花の名前とか虫の名前というのをそんなに細かくオレらは知らんよね?

瀬上 : ええ。知りません。

米島 : でもさ、そういう花の名前とか虫の名前とかってそんなに知っている必要性っていうのは自分の生活にはないけれど、名前を知っているとすごく楽しいというか、少なくともオレはね、人よりも昆虫が好きでね、花なんかは名前もわかんないし見ててもそんなに楽しくないんだけれども、昆虫はさぁ名前がわかるから、見ててすごく楽しいと言うか、愛着があるよね、どの昆虫に対しても。自分は花の世界は知らないけれど昆虫の世界は知っているから、そこにある愛着ってけっこうなものなんだよね。
 ないかなぁ、そういう、必要がないけど名前を知っているもの、みたいな。

瀬上 : そうですねぇ、虫の名前とか、花の名前に相当するかどうかはわかりませんけれども、僕は色彩について人より詳しいんですよね。カラーコーディネーターの資格とかは持ってませんけれど、三級ぐらいならあんまり勉強しないでも結構すぐにとれるぐらいじゃないかと思います。

米島 : へぇー。そうなんだ。
 それじゃあさあ、なんか色とかの名前を覚え始めた頃とかってあったよね?楽しくなかった?

瀬上 : ええ、はい。そうですね。やっぱり色とかについて詳しくなった後と詳しくなる前とでは色を見て「愛着が湧く」という表現が適当かどうかはわかりませんけれども、広告の配色ひとつを眺めるだけでもすごい興味を持って見るようになってきましたよね。特に色彩を見たらすぐにだいたいのRGB比に換算できるようになったぐらいの時は、すごい楽しかったですね。ポスターを見たら「ああ、これはRGB比100%,0%,50%のちょっと青の入ったあざやかなピンクだ、これに合う色は………」とか、考えるようになったらもう色について人より詳しくなるのにそんなに時間はかからなかったですね。

米島 : だよね。というか、多分みんなそうだと思うんだけど、名前を知るっていうのはその世界を知るってこととイコールではないけれど、ほぼイコールの関係にあるようなもんだと思うのよ。

瀬上 : はぁ、その、つまり、もしかすると、名前を知る、というのはその世界に興味を持ってのめりこんでゆくはじめの一歩だと、そういうことですか?

米島 : イエッサ。そうれす。そうれす。単にはじめの一歩というだけでなくて、一番大きな一歩だよね。その一歩が踏み出せたか踏み出せなかったかで、マニアックにのめりこんでゆくことが可能かどうかというのが、大きく変わってくるッしょ?

瀬上 : まぁ、そうですね。マニアックにのめりこんでいく過程っていうのはものすごい好奇心というか、その世界への愛着というか、そういうのがありますよね。基礎的な用語も知らないような他人から見るとかけらも面白くないことを、本人はえらく楽しんでやりますよね。そんなに知らない分野のことでもちょっとだけ知ってる専門用語とかが出てくると、「オッ、これは知ってるぞ」とかって名前を知ってるだけでうれしいことってありますしね。

米島 : そうそう。名前を覚えるっていうのは強いことだよね。すごく。

瀬上 : そうですね。そう考えるとクリエイターは何としてもプレイヤーにゲーム内に登場するものの名前を覚えさせなければならないといった感じはしますね。

米島 : でしょ?
 まぁ、中には覚えやすい名前にするとかってだけじゃなくって、「覚えたい」というテンションをプレイヤーに感じさせるようにする方法を取っていたり、ポケモンなんかは裏業で『ポケモンいえるかな』って歌をヒットさせるというアラワザをやってたりするけど。

瀬上 : その、あの、でも思ったんですけれど、ドラクエって名前を覚えやすい工夫がどうこうというのは、例えば、ルーラみたいな魔法を持ち込んでいるということもそういうことに貢献してるだろうな、とかっていうのは想像がつくんですけれど、すごく単純なことを言ってしまうとドラクエって、FFみたいにビジュアルで説明するんじゃなくて、基本的にテキストがベースになってるじゃないですか。それが一番大きいということはないですか?

米島 : ………そだね、…それは、まあ、そうだ。そうかもね。
ま、そうだとは言ってもさあ、ただ何の工夫もなしにテキストをベースにしてしまうと、それって本当に受け入れてもらいえるのだろうか、というところがあるでしょ。多分

瀬上 : なるほど。
 
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2001-7-7
2002-1-8
2002-1-21

(C)Akito Inoue